2016年9月17日(土)に,ウインクあいちにおいて,第13回OR学会中部支部シンポジウムが「情報化時代の信頼性・安全性技術」をテーマとして27名の参加者を迎えて開催された.
1人目の講演者の田村慶信氏(山口大学大学院)からは,講演題目「オープンソースソフトウェアに対する信頼性評価の適用例と最近の動向」の下,ソフトウェア信頼性の観点で,近年特に注目されているオープンソースソフトウェアに関する信頼性の評価法について解説していただいた.オープンソースソフトウェアは,ソースコードが公開され,誰でも自由に改変可能なソフトウェアである.オープンソースソフトウェアを導入することにより,開発コストの削減,納期の短縮が期待できることから,様々な組織において採用するケースが増えている.一方,オープンソースソフトウェアはその品質管理の点で問題を抱える.
講演では,ソフトウェア信頼度成長モデルをはじめとする信頼性評価法と適用例について説明いただいた.また最近の研究として,ディープ・ラーニングに基づくオープンソースソフトウェアに対する信頼性評価法を解説していただいた.人工知能の技法の1つであるディープ・ラーニングは,現在ホットなトピックでもあり時宜を得た興味深い内容であった.全体を通しては,ソフトウェア信頼性の分野について概要から最近の研究動向まで幅広く理解できる内容であった.
2人目の講演者の後藤邦夫氏(南山大学)からは,講演題目「情報通信セキュリティとOR」の下,情報セキュリティ分野における問題の事例,セキュリティ対策技術,OR技法の応用可能性について解説していただいた.後藤氏は,東海地区のインターネットの技術および利用に関する啓発・普及に貢献されたこの分野の第一人者として知られる.
情報通信技術の進展に伴い,生活の利便性は飛躍的に向上している一方で、システムは大規模化,複雑化しており,障害が発生した場合,社会生活に大きな混乱をもたらすことが問題となっている.情報システムの高信頼化のためには,セキュリティの面からの対策も必要である.年金機構の個人情報流出のインシデントは社会に大きな衝撃を与えた.2015年秋にマイナンバー制度が導入され,セキュリティに対する関心はますます高まっている.
講演では,情報セキュリティに関して重要なキーワードを中心にわかりやすく具体的に説明いただいた.内容は,シンポジウム参加者の情報セキュリティに対する意識を高めるものであった.また講演の最後に,パケットの異常検出に関してOR技法の応用可能性を指摘するなど,情報セキュリティ分野に対する更なるOR技法によるアプローチの発展に期待を抱かせる内容であった.
3人目の講演者の土肥正氏(広島大学大学院)からは,講演題目「非定常累積超幾何試行過程とその応用~信頼性に関連したある物語~」の下,ソフトウェア信頼性の発展の歴史的経緯から最新の研究成果まで解説をしていただいた.
ソフトウェア信頼性モデルは,定量的なソフトウェア信頼性評価を目的とした数理モデルとして知られており,1970 年代から現在に至るまで数多くのモデルが提案されている.
講演では特に,超幾何分布ソフトウェア信頼性モデルに着目して解説いただいた.超幾何分布は,離散型確率分布の一つであり,非復元抽出モデルの分布である.従来の研究においては,テスト試行で潜在的に発見され得るフォールト数を表す反応関数について,制約条件を常に満たす実行可能なものを求めることは困難であるという問題点があった.今回の講演では,反応関数に関して実行可能な仮定を設けた場合,超幾何ソフトウェア信頼性モデルは非同次ポアソン過程に帰着されるなどの研究成果を披露いただいた.結論を導くまでのプロセスには紆余曲折があり,タイトルのように信頼性に関連した物語があった.参加者のこの分野への関心を大いに高める講演であった.