第319回部会報告

日時:
2024年11月16日(土) 14:00〜17:00
出席
20名
場所:
ハイブリッド開催 (東海大学 品川キャンパス 1号館2階 1-2会議室&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 二層ビザンチン障害耐性合意過程における最適シャード分割とブロックチェーントリレンマの破れの数理
    藤原 明広 (千葉工業大学)
    本講演では、ビザンチン障害耐性合意ブロックチェーンにおける検証ノード間ブロードキャストの数理モデルを用いることで、二層合意過程におけるシャード分割が取引処理性能に与える影響を理論的に解析した結果について報告された。また、取引処理性能を最大化する最適シャード分割や、この最適設定下でブロックチェーントリレンマ(分権化,拡張性,一貫性の間の三重トレードオフ)が破れていることについて数式を用いて示された。
  2. 連続時間に対応した隠れマルコフモデルを用いた分析手法の開発
    笹沼 克信 (名古屋商科大学)
    直接観測できない状態が遷移しDTMCを形成している時に、これらの状態からのEmissionsを観測することによって観測できない状態を調べる数学的なツールとして、隠れマルコフモデル(HMM: Hidden Markov Model)が知られている。HMMの分析は、アルゴリズムによる数値的アプローチを取ることが一般的であるが、そのモデルの特性を数値解析のみで理解することは容易ではない。しかしDTMC+Emissionsという形をとるHMMをCTMCの形に置き換えることにより、解析的にHMMを分析し、モデルの特性や指標間の関連性を調べることができる。本講演では、このアプローチの有効性を簡単なモデルを用いて検証した結果について報告された。

(2024年11月28日更新)

 

第318回部会報告

日時:
2024年7月20日(土) 14:00〜17:00
出席
28名
場所:
ハイブリッド開催 (東海大学 品川キャンパス 1号館2階 1-2会議室&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 未知のソーシャルネットワークにおけるインフルエンサーの特定
    津川 翔 (筑波大学)
    人と人との関係を表現したソーシャルネットワークにおける影響力の強いノード、いわゆるインフルエンサーを特定することは、効果的なバイラルマーケティングや誤情報の拡散抑制などの応用上重要な研究課題である。インフルエンサーを特定するための多くの手法は、インフルエンサーの属するソーシャルネットワーク全体の構造が既知であることを前提とする。一方で、ソーシャルネットワークの規模は非常に大きいため、その構造を取得すること自体が困難である。本講演では、ソーシャルネットワークの構造に関する限られた情報のみからインフルエンサーを特定する研究の成果が紹介された。ネットワークサンプリングによって得られた部分的なネットワークの構造のみからインフルエンサーを特定するための手法と、その有効性を評価した実験の結果について報告された。
  2. 多数同時接続のためのスロット化アロハ方式:公平性と性能のトレードオフ
    塩田 茂雄 (千葉大学)
    多数のデバイスを基地局に接続するためにスロット化アロハ方式を利用する際の性能について、マルチセル環境における評価について紹介された。ここで、評価には確率幾何解析とシミュレーションの両方の方法が用いられた。すべてのデバイスが同じ強度で信号を送信すると、基地局から遠いデバイスほど不利になるという不公平が生じるが、送信強度をデバイスと基地局との距離によって調整して不公平性を解消すると逆にスループットが低下することなどが示された。

(2024年8月8日更新)

第317回部会報告

日時:
2024年6月8日(土) 14:00〜17:00
出席
67名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 実務につなげる数理最適化
    梅谷 俊治 (リクルート)
    近年、機械学習によるデータ分析の普及に伴い、その結果を基にした意思決定や計画策定を実現する数理最適化が注目されている。 現在、有償・無償を問わず、多くの数理最適化ソルバーが利用可能となり、現実問題の解決手段として急速に普及している。 しかし、企業における数理最適化の専門家は少なく、大学から輩出される人材も限られているため、実務における数理最適化の活用はまだ限定的な範囲に留まっているのが現状である。この課題を解決するために、(1) 実務の各段階における問題解決を支援することを通じて数理最適化の専門家を育成し、基幹事業に数理最適化を活用する枠組みを創出すること、(2)産業や学術の幅広い現実問題に迅速に対応するための基盤技術となる高性能で汎用的な数理最適化ソルバーを開発することを目指して活動している。講演では、これらの取り組みについて紹介された。
  2. スケールフリーの呪い: 多スタート法による大規模組合せ最適化の困難さ
    増山 博之 (東京都立大学)
    多スタート法は、大規模組合せ最適化問題に対する代表的なメタヒューリスティクスである。一般に、多スタート法による大規模組合せ最適化問題の求解過程においては、初期段階で最良解の目的関数値は急速に改善し、その後、解の改善頻度が極めて小さくなる「定常的な状態」に、比較的早く到達する現象が確認される。本講演では、このような現象を理論的に解析し、理解を深めることを目的とし、それを達成するために、標準的な多様化機構をもつランダム多スタート(RMS)法に着目し、大規模組合せ最適化における最適値と最良実験値のギャップ(誤差)を詰める困難さを極値理論を用いて解析した。その結果、最適値からの最良実験値の相対ギャップがスケールフリー性を持つことが、数学的に示され、かつ、TSPの大規模インスタンスを対象とした数値実験でも確認できた。ここでは、この現象を「スケールフリーの呪い」と称する。この「スケールフリーの呪い」を克服するには、最良解の改善効率がRMSと比べて指数関数的に向上した性能を有する多スタート法の開発が必要であり、これは容易なことではない。以上のことから示唆されるのは、「いかにギャップを詰めるか」よりも「いつ計算を止めるか」が重要であり、その判断は、最適値の推定よりも、追加反復による最良実験値の「期待改善率」のような指標に基づいて行うのが効果的だということである。

(2024年5月23日更新)

第316回部会報告

日時:
2024年5月18日(土) 14:00〜17:00
出席
31名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. マルコフ連鎖によるハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式の近似解析
    渡辺 樹 (大分大学)
    最適制御問題では,モノ(人や粒子など)の動きを制御することで、価値関数と呼ばれる評価関数の最大(最小)の実現を目指す。よく知られている手法として,ダイナミクスが微分方程式で記述される状況下で,価値関数をハミルトン・ヤコビ・ベルマン(HJB)方程式と呼ばれる偏微分方程式の解として特徴付ける方法があるが,非線形性や境界条件などの方程式の複雑さから時間離散化や有限要素法などによる数値解析がよく行われている。本講演では,制御問題の新たな数値解析手法として,マルコフ連鎖による手法の有用性について議論した。ダイナミクスを記述する微分方程式をマルコフ連鎖を用いて近似し,その制御問題の極限としてHJB方程式が導出可能であることを粘性解と呼ばれる偏微分方程式の手法を用いて明らかにした。
  2. マルチエージェントシミュレーションを用いたテーマパーク内の優先搭乗パスの効果分析
    蓮池 隆(早稲田大学)
    テーマパークでは,アトラクションの待ち時間や体験できたトラクションの数・種類が来園者の満足度に大きく影響するため,待ち時間を短縮する施策として,待ち時間の提示や優先搭乗パスが導入されてきた。一方で,パスを持つ人が優先的にアトラクションに搭乗すると,普通の列のサービス率は下がり,普通の列の待ち時間は増加し,来園者全体の満足度低下やばらつきの増大が懸念される。また,近年では有料の優先搭乗パスの導入が拡大し,値段設定により来園者全体の満足度向上が期待できるかを分析することが必要となる。
    本講演では,マルチエージェントシミュレーションを行い,優先搭乗パスの配布方法の分析・評価,対応アトラクションの数・種類,有料パスの配布スタイルと来園者の満足度の関係性について分析し,適切な優先搭乗パスのアトラクションについて検討を行った.

(2024年5月23日更新)

第315回部会報告

日時:
2024年4月20日(土) 14:00〜17:00
出席
32名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 倒産を避ける最適運転資金問題における非局所変分不等式(Non-local Variational Inequality on optimal working capital problem)
    豊泉 洋(早稲田大学)
    本講演では,ポアソン過程に従う売り上げを持つビジネスにおける最適運転資金問題を考えた。一般にブラウン運動によって駆動される確率的最適化問題は、動的計画法により2階微分を含むハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式に定式化されるが、その解にはアプリオリな滑らかさが期待できないので、解の滑らかさの条件を緩和した粘性解を用いて定式化し、解く方法が広く知られている。ここでは、応用確率ではまだ馴染みの浅い粘性解の理論を紹介しながら、ポアソン過程に従う確率的ジャンプを含むため、さらに解の挙動の滑らかさが怪しい確率的最適化問題を扱い、この問題が非局所変分不等式の粘性解として定式化できることを示した。さらに、非局所変分不等式を逐次的に解くことにより、手元資金不足による倒産を避け、確定的な利益を最大化する最適な運転資金のレベルを実際に導出できることを示した。
  2. ポワソン背後到着流が存在する単一サーバ待ち行列における Age of Information の解析
    井上 文彰 (大阪大学)
    本講演では,ポワソン過程に従う背後到着流が存在する単一サーバ待ち行列 (GI+M/GI+GI/1 待ち行列) における情報鮮度 Age of Information (AoI) について考察した.注目する送信端末 (センサ) は,一般の非負確率分布に従う間隔で,更新情報を含むパケット (情報パケット) をサーバへ送出する.情報パケットはサーバにおいて先着順で処理され,その結果得られた情報は受信端末 (モニタ) に表示される.AoI は,現時刻において表示中の情報がセンサで生成されてからの経過時間として定義される量であり,これは情報のリアルタイム性を表す指標である.本講演では,GI+M/GI+GI/1 待ち行列における AoI の定常分布のラプラス・スティルチェス変換を導出し,さらに,確率順序を用いた議論により,AoI の上下界に関するいくつかの結果を導出した.また,特別な場合として,PH+M/GI+GI/1 待ち行列における平均 AoI の数値計算法を示し,それに基づいたいくつかの数値例を紹介した.

(2024年4月22日更新)

第314回部会報告

日時:
2024年2月3日(土) 14:00〜17:00
出席
26名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. トラップモデルの熱核評価とそのスケール極限 — マルコフ連鎖の時間変更
    *熊谷隆 (早稲田大学), Sebastian Andres (TU-Braunschweig), David Croydon (京都大学)
    本講演では,各々の頂点における滞在時間が従う指数分布の平均が確率的に分布する連続時間ランダムウォークが考察された.特に平均の従う分布が裾の重い分布(ヘヴィーテイル)であるとき,粒子は滞在時間の平均が大きい点に長く留まるという異常拡散現象が生じる.本講演では,ブショー(Bouchaud)のトラップモデルと呼ばれるこのようなモデルにおける異常拡散現象やスケール極限に関する先行研究が解説されたのち,熱核に関する成果が報告された.
  2. Diffusion approximation of the stationary distribution of a two-level single server queue
    宮沢 政清(東京理科大学)
    本講演では,待ち行列長に応じてサービス速度が 2 段階で変化する GI/G/1 待ち行列におけるスケーリング極限に関する成果が報告された.特に,定常分布の重負荷極限はサービス率が変化する客数閾値を境にして 2 種類の指数分布を貼り合わせた形状の分布となることが証明された.さらに,この極限分布と対応する拡散過程が満たすべき性質が論じられ,そのような拡散過程の存在と唯一性の証明は容易でなく,現在なお未解決であることが説明された.

(2024年2月22日更新)

第313回部会報告

日時:
2023年12月16日(土) 14:00〜17:00
出席:
32名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 蓄電池を利用した電力入札戦略における待ち行列モデル
    *牧本直樹(筑波大学),高嶋隆太(東京理科大学)
    本講演では,はじめに太陽光や風力で発電した電力の電力市場における売電に関する背景が紹介され,蓄電池を利用して電力価格が高い時間帯に売電する戦略が考えられることが解説された.次に,蓄電量の変化を待ち行列でモデル化した上で,蓄電池の残量と時間帯に依存する電力の市場価格をともに考慮した売電戦略の最適戦略が導出され,さらに得られた最適戦略の構造が議論された.
  2. 待ち列中の空白と待ち客の前進遅延がある定常なマルコフ型待ち行列について
    滝根哲哉 (大阪大学)
    本講演では,到着率がシステム長に依存する場合を許す、待ち列中の空白と待ち客の前進遅延がある定常なマルコフ型待ち行列が解析された.システム長と系内客数の結合母関数を始めとして,結合定常確率関数の陽表現,低次積率の陽表現,漸近特性,ならびに定常システム遅延分布など多様な性能指標に対する網羅的な定常解析の結果が報告された.

(2024年1月31日更新)

第312回部会報告

日時:
2023年11月11日(土) 14:00〜17:00
出席:
21名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. インサイダー取引規制と待ち行列理論
    山崎眞惟
    本講演では,インサイダー取引規制を待ち行列理論的な手法で分析した取り組みが紹介された.インサイダー取引規制は,経営者のように会社の機密情報を入手し得る者による株式の売買を一定の場面で禁じており,その背後には,株価上昇に繋がる情報を知りながら株式を購入し,あるいは株価下落に繋がる情報を知りながら株式を売却することが無条件に認められると,機密情報を知り得ない投資家との対比において不当な優位性が生じるという認識がある.本講演では,機密情報の発生・消滅過程を待ち行列モデルとして表現し,この認識および現行規制の適否を検証する方法が提示された.
  2. Deep Learning Schemes for solving high-dimensional PDEs with Wiener-Chaos Expansion and its importantce in future application for Mean-Field type models in Finance
    LIU, Kangyong (Waseda University)
    本講演では,高次元の非線形偏微分方程式に対する 前進・後退確率微分方程式への変換に基づく求解法において,Wiener-Chaos 展開を用いた前進方程式における密度関数の近似法が提案された.さらに,その応用として,平均場ゲームの分析が論じられ,特に,クラウドトレーディングへの適用例が紹介された.
  3. Auction Game in RIS-aided Secure Wireless Communication from the Physical Layer Security Perspective
    *Qianyue Qu (Nara Institute of Science and Technology), Yuanyu Zhang, (Xidian University), Shoji Kasahara, (Nara Institute of Science and Technology)
    本講演では,信号を伝搬する電波を所望の方向に反射させることができる制御素子である Reconfigurable intelligent surface (RIS) が紹介され,RISアシスト型無線ネットワークにおいてRIS保有者の利益を最大化するオークション問題が考察された.特に,送信元-RIS-宛先リンクと送信元-RIS-盗聴者リンクを含む無線ネットワークシステムを考え,オークションゲームとして定式化することで,様々なシナリオがセキュリティの観点から検討された.

(2023年12月13日更新)

第311回部会報告

日時:
2023年7月15日(土) 14:00〜17:00
出席:
54名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 待ち行列理論と情報システム性能評価 2.0
    笠原 正治(奈良先端科学技術大学院大学)
    本講演では,情報システム性能評価のための理論的道具としての待ち行列理論は,近年の情報システムにおける著しい複雑化,大規模化,ならびに高度化に伴って直接応用できる場面が少なくなってきたという問題意識が提起された.また,それを出発点として,複雑な対象に対してシンプルな確率モデルがどこまで役にたつかという観点から,情報ネットワークと大規模分散システムを対象に,M/G/1や極値理論を応用したモデリング手法についての解説がなされた.
  2. 待ち行列ゲームとエージェント・ベース・モデル
    佐久間 大(防衛大学校)
    待ち行列ゲームとは,従来の待ち行列理論にゲーム理論の考えを組み込んだ,待ち行列理論の研究分野における一つのモデルを指す。本講演では,待ち行列ゲームにおける代表的な2例(到着客が待ちに加わるか否か,客がどのタイミングで待ち行列に到着するか)について,ナッシュ均衡を求める手順について解説がなされた。さらに,実際の待ち行列において,客がどのように経験を積み活用することで待ち行列ゲームの均衡が発現し得るのか,その仕組みについてエージェント・ベース・モデルを用いた説明がなされた。

(2023年8月13日更新)

第310回部会報告

日時:
2023年6月17日(土) 14:00〜17:00
出席:
24名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 人の流れに着目した施設配置の数理モデルと首都圏鉄道網上の配置分析
    田中 健一(慶應義塾大学)
    本講演では,フロー捕捉型の施設配置問題の基礎ならびに,その鉄道網上におけるサービス提供地選定問題への応用が紹介された.フロー補足型の施設配置問題とは,ネットワーク上の多数のフローが与えられたという状況のもとで,複数の施設を配置することにより捕捉されるフロー,すなわち,配置された施設を少なくとも一つ通過するフローの数を最大化する問題である.本講演では特に,実際の鉄道網上における利用者データ (大都市交通センサスの調査結果) を用いて,何らかの事業者が新たにサービス提供を行う鉄道駅を複数選定する問題が様々な観点から考察された.
  2. 準出生死滅過程における定常分布の漸近解析:特に3次元の場合
    小沢利久(駒澤大学経営学部)
    本講演では,3ノード以上の待ち行列ネットワークに対応する枠組みである,3次元の準出生死滅過程における定常分布の裾の減衰率が考察された.まず,準出生死滅過程の境界を取り除くことで得られる誘発マルコフ加法過程の占有測度ならびに,取り除いた境界上の定常確率を用いて3次元準出生死滅過程における定常分布が表現されるという結果が紹介され,続いて軸方向での減衰率が満たすべき関係式が導出された.さらに,それらの関係式に基づいて減衰率の上限が最適化問題の解として与えられることが示され,具体的な待ち行列ネットワークの挙動との対応関係が議論された.

(2023年7月7日更新)

第309回部会報告

日時:
2023年5月20日(土) 14:00〜17:00
出席:
21名
場所:
ハイブリッド開催 (早稲田大学西早稲田キャンパス&オンライン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. サービス時間再生のある部分最短順M/GI/1待ち行列モデル
    *塩田茂雄,豊後光一朗(千葉大学)
    本講演では,タクシーの配車アプリなどに着想を得たモデルである,サービス時間再生のある待ち行列モデルに対する解析が紹介された.サービス時間再生とは,客のサービスが完了するたびに,待ち客のサービス時間の一部が再設定されるという挙動である.本講演では,サービス時間再生のある M/GI/1 待ち行列モデルに対する解析を通じて,再生されたサービス時間が最も短い客から先にサービスを行う「部分最短順サービス規律」が非常に効果的であるということが示された.
  2. 位相型分布から派生する分布について
    岡村寛之(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
    本講演では,位相型分布を拡張した分布族として,裾の重い位相型分布ならびに多変量位相型分布が紹介された.特に,裾の重い位相型分布が,通常の位相型分布の無限混合により構成できることが述べられ,その数値計算法が議論された.また,その結果に基づいて,観測データに対し裾の重い位相型分布のパラメータをフィッティングする EM アルゴリズムの構成法が示された.

(2023年7月7日更新)

第308回部会報告

日時:
2023年4月15日(土) 14:00〜17:00
出席:
19名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&大阪大学吹田キャンパスセンテラスサロン)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 安全関連系に対する経済的な保全実施のための数理的アプローチ
    井上 真二 (関西大学)
    本講演では,安全関連系,特に電子・電子・プログラマブル電子機器(E/E/PE)安全関連系の運用における最適なプルーフテスト実施間隔の決定法が議論された.プルーフテストは,頻繁に実施される自己診断機能では検出できないフォールト(DUフォールト)の検知および修復に主軸をおく保全活動であり,その実施には相応のコストが必要となる.本講演では,保全コストと危害リスクとのトレードオフ関係に着目し,確率論的な定式化に基づいて最適方策が理論的に導出され,その性質が議論された.
  2. 連続時間マルコフ連鎖分割手法の開発と応用
    笹沼 克信 (名古屋商科大学)
    本講演では,連続時間マルコフ連鎖を複数の部分的なマルコフ連鎖に分割して定常状態を求める手法が論じられた.初めに,簡単なマルコフ連鎖に対して分割法の原理が説明され,分割後の複数のマルコフ連鎖が同一の状態を含む場合の取り扱いが解説された.続いて,背後状態が巡回的なマルコフ連鎖に従うようなM/M/1待ち行列の分析法が論じられ,このモデルにおいて,確率フローの実質的な収支に着目して分割後のマルコフ連鎖の推移率を定めることで定常解析が容易になることが示された.

(2023年4月19日更新)

第307回部会報告

日時:
2023年2月4日(土) 14:00〜17:00
出席:
31名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&早稲田大学西早稲田キャンパス63号館1F数学応数会議室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. レヴィ保険リスクモデルにおける破産確率の区間推定問題
    清水 泰隆(早稲田大学 理工学術院)
    本講演では,負の方向にのみジャンプをもつレヴィ過程が与えられた閾値に到達する (下回る) 確率が考察され,特にその統計的推定問題が議論された.この確率は例えば保険サープラスにおける破産確率に相当する.初めに,このような確率に対する古典的な漸近理論ならびにその拡張が説明され,続いてその統計的推定問題に関する理論的結果が紹介された.さらに,シミュレーション実験により,理論的に得られた漸近信頼区間の性質が数値的に議論された.
  2. エージェントの戦略的な行動を考慮したDouble-Ended Queuesの解析
    Nguyen Quoc Hung(筑波大学),*Phung-Duc Tuan (筑波大学)
    本講演では,タクシーやモビリティシェアリングのシステムから着想を得た Double-Ended 型待ち行列の解析が紹介された.Double-Ended 型待ち行列では,需要 (乗車客など) と供給 (タクシーなど) がともにランダムにシステムへ到着し,これらのマッチングが取れた時点で両者がシステムから離脱する.本講演では,需要と供給の片方もしくは両方が戦略的である場合,ならびにマッチングに時間を要する場合と要しない場合など複数のモデルに対するゲーム理論的な解析結果が紹介された.

(2023年2月13日更新)

第306回部会報告

日時:
2022年12月17日(土) 14:00〜17:00
出席:
22名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&東京工業大学 大岡山キャンパス 西8号館(W)809号室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. クレジットモデル ―保険 と option理論 の 融合
    The Duffie-Singleton Model: unifies Insurance and Finance
    中里 大輔(早稲田大学)
    本講演では,ダフィーシングルトン・クレジットモデルを,不連続なジャンプと連続なブラウン運動からなる確率微分方程式を出発点として導出することで,その数学的操作が示唆する概念的問題が提起された.特に,ダフィーシングルトン・クレジットモデルを得るにあたって,元々の確率微分方程式に含まれていたジャンブが相殺されるという現象が観察され,これに基づいて保険数理と金融工学の関係が議論された.
  2. ヌヴーの交換公式とそのクラスタ型無線ネットワークの解析への応用
    三好 直人(東京工業大学)
    本講演では,二つの定常点過程において,それぞれのパルム分布による表現を結びつけるヌヴーの交換公式とその確率幾何的解析への応用が紹介された.特に,一般化された空間点過程版のヌヴーの交換公式が導入され,その応用として,無線ノードが密集して配置しているようなクラスタ型無線ネットワークを空間点過程としてモデル化し,その性能指標の解析においてヌヴーの交換公式を活用した結果が紹介された.

(2023年2月13日更新)

第305回部会報告

日時:
2022年11月19日(土) 14:00〜17:00
出席:
25名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&東京工業大学 大岡山キャンパス 西8号館(W)809号室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. M/G/1型マルコフ連鎖に対するレベル増分切断近似の誤差の解析
    大内 克久(京都大学),増山 博之 (東京都立大学)
    本講演では,M/G/1型マルコフ連鎖の定常分布の数値計算におけるレベル増分切断近似が計算結果に与える影響に関する解析が紹介された.レベル増分切断近似とは,本来非有界であるレベル上昇幅を数値計算のために有限で打ち切る近似であり,M/G/1型マルコフ連鎖に対する数値計算において標準的に用いられている.本講演では, 近似に用いる項数を増加させたときの近似誤差の漸近的な振る舞い,ならびに誤差上界の観点からレベル増分切断近似に対する数理的な解析を行った結果が紹介された.
  2. 2.任意の分布に従うバッチサイズ・サービス開始間隔をもつ集団サービス型複数サーバ待ち行列について
    中村 彩音(筑波大学),Phung-Duc Tuan (筑波大学)
    本講演では,待合室で客がグループを組み,特定の条件が満たされたときにサービスが開始されるという待ち行列モデルに関する解析が紹介された.初めに,サービス資源が十分に存在するという状況下において,このようなシステムは集団サービス型無限サーバ待ち行列と見なせることに着目し,その定常状態における性能指標が解析された.次に,より複雑な状況設定においてこのようなシステムを待ち行列モデル化し,顧客の戦略的な行動を考慮したゲーム理論的解析を行うアプローチが紹介された.
  3. 3.マルコフ連鎖を用いた微分方程式の近似モデルの提案とその極限解析
    渡辺 樹(早稲田大学)
    本講演では,マルコフ連鎖の High-density limit によって,マルコフ連鎖と微分方程式を結びつける手法ならびにその数理的解析が紹介された.特に,離散トーラス上の粒子系として表現されるマルコフ連鎖を題材とし,適当な正則条件の下で,その High-density limit が反応拡散方程式の解と結びつけられ,大数の法則や中心極限定理に類する性質が成り立つことが示された.また,今後の展望として,これを最適制御付きの粒子系における解析へと発展させるアイデアが紹介された.

(2022年12月5日更新)

第304回部会報告

日時:
2022年7月16日(土) 14:00〜17:00
出席:
62名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&早稲田大学国際会議場 第3会議室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 簡単なマルコフ解析でできる待ち行列モデルの評価
    山下 英明(東京都立大学)
    本講演では,初学者を対象に,簡単なマルコフ解析で評価できる待ち行列モデルの例が紹介された.初めに,M/M/c/K 待ち行列を用いて,サーバの多重化の効果ならびに逆効果を検証できることが述べられた.通常は多重化によって呼損率や平均待ち時間は減少するが,サービス時間の異なる複数の利用客が存在する場合に多重化を行うと,サービス時間の長い客がサーバをブロックすることでかえって性能が悪化する場合があり,この対処法として優先窓口を設けることの効果が議論された.次に,残余サービス時間を状態にとるマルコフ連鎖を考えることで一般的な離散時間待ち行列モデルが解析可能となることが説明され,その応用として,到着がバーストと呼ばれる単位で発生する待ち行列に対する解析法が紹介された.
  2. フェイクニュースとその訂正記事の相互作用から考えるトイレットペーパー買い占め事件
    会田 雅樹(東京都立大学)
    本講演では,フェイクニュースの拡散とその訂正情報の拡散の間に起こる相互作用をモデル化するアプローチとして,活性因子と抑制因子からなる反応拡散系としての定式化が紹介された.フェイクニュースを抑制因子,訂正情報を活性因子と対応づけることで,訂正情報の広がりがフェイクニュース自体の拡散に加担してしまうことや,フェイクニュースが広まると訂正情報を広げるのが難しくなることが表現され,このような仮定に基づいて,反応拡散系においてチューリングパターンが発生する (ユーザクラスタが生じる) 条件が議論された.特に,訂正情報の拡散速度を上げることでチューリングパターンが発生しなくなることが示された.

(2022年7月28日更新)

第303回部会報告

日時:
2022年6月18日(土) 14:00〜17:30
出席:
26名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&東京工業大学 大岡山キャンパス 西8号館(W)809号室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. Proof-of-Stake ブロック・チェーンにおける投票型コンセンサスアルゴリズムと信頼度を用いた報酬罰則型インセンティブ・メカニズム
    笠原 正治 (奈良先端科学技術大学院大学)
    本講演では,ブロック・チェーンにおいて用いられる新規ブロックの正当性検証方式の一つである,Proof-of-Stake (PoS) コンセンサス・アルゴリズムが紹介された.PoS コンセンサス・アルゴリズムは stake と呼ばれる保証金を基に選出されたバリデータ群の投票によって合意形成を行うアルゴリズムであり,バリデータに適正な投票行為を促すための報酬罰則メカニズムが用いられている.本講演では,投票履歴に基づく信頼度を導入した報酬罰則メカニズムが提案され,確率モデルのシミュレーションを通じてその挙動が議論された.さらに,信頼度に基づく合意形成に利用可能な最適意思決定ルールとして,重み付き投票ルールが紹介された.
  2. 多元トラヒックを収容するEPONのDRMPCPにおける平均待ち時間の近似式
    *宮田 純子 (芝浦工業大学),滝根哲哉 (大阪大学)
    本講演では,光回線終端装置(ONU:Optical Network Units)ごとに異なるトラヒック特性を有する EPON(Ethernet Passive Optical Network)における上りトラヒックの平均待ち時間の解析が紹介された.初めに,従来の送信権割当アルゴリズム MPCP(Multi-Point Control Protoco)の拡張である,遅延 REPORTメッセージ付き MPCP (DR-MPCP) を採用した EPON システムがポーリング M/G/1 待ち行列としてモデル化された.続いて,そのモデルにおいて成立する疑似仕事量保存則が導出され,さらに ONU ごとの平均遅延時間に対する近似公式が疑似仕事量保存則を利用して導出された.最後に,数値実験を通じて近似公式の精度が非常に良好であることが示され,また,ポーリング順序が各 ONU の平均遅延時間に与える影響が議論された.
  3. CM/GI/1/K (1≦K≦∞)におけるサービス時間の凸順序が与える影響について
    *徳田太郎,町原文明(東京電機大学)
    本講演では,到着間隔が完全単調な確率密度関数を有する単一サーバ待ち行列 (CM/GI/1/K, K は 1 以上の整数または無限大) において,凸順序の意味でのサービス時間のばらつきの大きさが複数のシステム性能指標に与える影響が考察された.初めに,ある確率変数の確率密度関数が完全単調であることは,その分布が指数分布の混合として表現可能であることと等価であることが紹介された.次に,その性質を利用して,サービス時間の (凸順序の意味での) ばらつきの大小が非稼働期間長や待ち確率などの大小に与える影響に関する理論的結果が導出された.最後に数値例が示され,サービス時間のばらつきの大きさがこれらの指標に与える影響が数値的に議論された.

(2022年6月22日更新)

第302回部会報告

日時:
2022年5月21日(土) 14:00〜17:00
出席:
23名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&東京工業大学 大岡山キャンパス 西8号館(W)809号室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. ドクターヘリシステムの待ち行列的分析
    *鵜飼 孝盛,佐久間 大(防衛大学校)
    本講演では,ドクターヘリシステムに対する待ち行列モデルを用いた分析が紹介された.待機室の無い M/M/1 待ち行列という基本モデルから開始し,帰還までの残り時間が閾値 (要請受諾閾値) 以下である場合に待機が可能となるモデル,ならびに現場進出後の中途取り消しの発生を組み入れた離散時間マルコフ連鎖モデルという複数のモデルに基づく解析ならびに実データを用いた分析が示された.特に,要請受諾閾値については,新規要請の発生時にドクターヘリが使用中である確率と要請から現着までに要する時間 (遅延時間) がトレードオフであることに注目し,適切な閾値の決定法が議論された.
  2. 待ち行列モデルの実社会応用のために
    水野 信也(静岡理工科大学)
    本講演では,待ち行列モデルの実社会応用において重要となるいくつかの問題が議論された.初めに,大規模な閉鎖型待ち行列ネットワークに対する数値計算法を並列化する手法に関する取り組みが紹介された.特に,平均値解析法に基づく並列計算と,並列シミュレーションによる誤差を許容した平均値評価の比較が示された.次に,人流シミュレーションに基づく混雑の定量化や3Dモデルを用いたその可視化が紹介され,詳細なシミュレーションを行うことのメリットが説明された.最後に,施設内の人の密集を分散させる問題の連続時間マルコフ連鎖を用いた定式化ならびに最適化が紹介された.

(2022年5月24日更新)

第301回部会報告

日時:
2022年4月16日(土) 14:00〜17:00
出席:
20名
場所:
ハイブリッド開催 (オンライン&東京工業大学 大岡山キャンパス 西8号館(W)809号室)
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 待ち時間制約のある待ち行列モデルの「行列指数形式解」
    河西 憲一 (群馬大学)
    本講演では,待ち時間に制約のある待ち行列モデルにおける経過待ち時間に対する解析法が示された.初めに,マルコフ的な到着ならびにサービス過程を持つ待ち行列モデルにおいて,待ち時間制約長が一定値である場合に経過待ち時間が満たす定常方程式が説明された.続いて,その定常方程式が順序付き行列指数形式解を有することが示され,さらにそのカーネル関数が非対称 Riccati 微分方程式の解を用いて与えられることが示された.また,順序付き行列指数形式解に対する分解公式を用いた近似算法が紹介され,その数値精度が良好であることが述べられた.最後に,複数クラスモデルへの同手法の拡張に関する検討が紹介された.
  2. UAV空中基地局の自律分散型配置制御
    木村 達明 (大阪大学)
    本講演では,UAV (Unmanned Aerial Vehicle) 空中基地局における自律分散型の基地局配置法が提案された.提案手法では,確率幾何アプローチにより地上ユーザの密度をモデル化することで目的関数を定式化し,さらにその偏導関数を分散的に計算可能となる形式に変形することにより局所的な情報交換のみに基づく配置制御が行われる.講演では,この手法の局所最適解への収束性が保証されていることが説明され,さらに数値例を通じて提案手法の有効性が議論された.加えて,ユーザ密度が部分的にのみ観測できる場合への拡張や,UAV空中基地局に関する他の話題についても紹介があった.

(2022年4月19日更新)

第300回部会報告

日時:
2022年2月19日(土) 14:00〜17:00
出席:
22名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 診療予約枠における予約人数設定のための最適化手法
    市原 寛之(中部大学)
    本講演では,診察予約が可能な病院を対象とした診察待ち時間の最小化のための,各診療時間帯に割り当てる予約可能人数の最適化法が提案された.提案手法では,各診療時間帯での空き時間を無視するという近似のもとで各患者の期待待ち時間を導出し,これを最小化するような予約可能人数割り当てを総当りで探索する.シミュレーションにより近似の妥当性の評価が行われ,さらに,実データと比較することで提案手法の有効性が示された.
  2. Fredholm積分方程式を用いたEPQモデルの解析
    中出 康一 (名古屋工業大学)
    本講演では,第2種 Fredholm 積分方程式を用いた有限区間の連続状態マルコフ過程モデルの解析法の紹介があった.講演の前半では,第2種 Fredholm 積分方程式と degenerate kernel を用いたその解法の紹介があり,有限区間連続状態マルコフ過程において状態推移強度に分離可能性を仮定することで,この枠組みで極限分布が導出可能がことが述べられた.講演の後半では,この解析をEPQ (Economic Production Quantity) モデルおよび不良品が発生し再加工を行うような設定の EPQ モデルへと応用し,得られる極限確率から費用関数を最小化する最適な基準在庫量を導出する手法が紹介された.

(2022年2月21日更新)

第299回部会報告

日時:
2021年12月18日(土) 14:00〜17:00
出席:
20名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. パーシステントホモロジーとその応用
    白井 朋之(九州大学)
    本講演では,位相的データ解析において近年注目されるパーシステントホモロジーという概念についての概説と最新の研究成果の紹介があった.パーシステントホモロジーは,通常のホモロジーにパラメータを導入することで拡張された概念であり,その具体的な構成方法が点群を対象として紹介された.さらに,分子配列へ岩石のスキャン画像への応用例,グラフ理論との関係性,ポアソン点過程のパーシステント図(パーシステントホモロジーを可視化した図)に関する大数の法則など,様々な応用研究例が報告された.
  2. 上部ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖に対する新しい行列無限積形式解とその準アルゴリズム的構築可能性
    増山 博之(東京都立大学)
    本講演では,上部ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖と呼ばれる構造を持つマルコフ連鎖の定常分布の計算方法に関する最新の研究成果が報告された.講演の前半では,準出生死滅過程やM/G/1型マルコフ連鎖,レベル依存型準出生死滅過程などの,関連する構造型マルコフ連鎖とその定常分布の計算方法に関する既存研究の紹介があった.講演の後半では,既存研究が対象としている近似された定常分布ではなく厳密な定常分布を計算するための,厳密解に収束するような暫定解の列を統一的な枠組みのもとで効率的に構成可能な,準アルゴリズム的構築法が紹介された.

(2021年12月20日更新)

 

第298回部会報告

日時:
2021年11月13日(土) 14:00〜17:00
出席:
20名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. Information-Centric Networkingにおけるネットワークトモグラフィ
    川原 亮一(東洋大学)本講演では,ICN (Information-Centric Networking) における,ネットワークの内部情報を推定する手法であるネットワークトモグラフィの紹介が行われた.従来と異なりコンテンツ名を直接用いて通信を行うICNでは,転送されるコンテンツが通信経路上において自律分散的にキャッシュされるため,ネットワーク上での始点・終点の把握が困難になるという課題がある.これに対し,ユーザとコンテンツ単位での品質測定値を入力とし,各フローがリンクを通過する確率を表すルーティング確率行列を用いる,ICNにおけるトモグラフィ適用方法が紹介された.
  2. 相互参照を考慮した図書館資料参照モデルの提案と待ち行列への応用
    加藤 憲一(神奈川大学)本講演では,図書館における資料の参照に関する数理モデル化,および,待ち行列への応用に関する報告があった.講演の前半では,図書館の貸出データの実際の分析結果の紹介があり,資料の経年数の増加に伴い,平均貸出数が正の値に漸近するという傾向が見られることが示された.講演の後半では,この現象を説明するための,同一属性を持つ資料間において互いに参照が確率的に発生するという相互参照モデルが提案され,実際に実データで見られた傾向を説明可能な特性を持つことが示された.

(2021年11月13日更新)

 

第297回部会報告

日時:
2021年7月17日(土) 14:00〜17:00
出席:
20名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. コンテンツ再配置によるICNルータのFIB集約
    上山 憲昭(立命館大学)本講演では,現在のホスト・セントリックなインターネット構造の課題を解決する新しいネットワークとして提案されている NDN(Named Data Networking)において,ルータの転送テーブル (FIB) のエントリ数を集約する手法が紹介された.提案手法は,一般的にはインターネットにおいてトラヒック量や遅延の削減のために利用されているCDNを用いてコンテンツを再配置し,ドメインの階層構造を利用してエントリを集約するものであり,実際のデータを用いた評価実験において FIB サイズを 45 % 程度削減できることが示された.
  2. マルコフ変調ランダムウォークにおける占有測度の漸近特性とその応用
    小沢 利久(駒澤大学)本講演の前半では,多次元マルコフ変調ランダムウォークにおいて,その第一変数(レベル)が正領域から出るまでの間に各状態を訪問する平均回数である占有測度に対し,任意の正方向への推移に対する漸近的な減衰率の結果が示された.講演の後半では,2次元の QBD 過程を対象とし,先の結果に加えてレベルの境界の影響を考慮して解析することで,定常分布の任意方向への推移に対する漸近的な減衰率が示された.

(2021年7月20日更新)

第296回部会報告

日時:
2021年6月19日(土) 14:00〜17:00
出席:
19名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 一期一会の数理とその応用
    巳波 弘佳(関西学院大学)本講演では,人のすれ違いの性質に着目した空間的なモビリティモデル,およびその通信分野への応用に関する種々の話題が紹介された.講演の前半では,すれ違い頻度分布がべき乗則に従う,ホームシック・レヴィ・ウォークについての紹介があった.講演の後半では,その応用として蓄積搬送型通信に注目し,人のモビリティを考慮した伝搬方式や,Virtual Segment 方式と呼ばれる,拠点間の高速通信と端末間の蓄積搬送型通信を組み合わせた方式などの紹介があった.
  2. メッセージ分割が発生するネットワーク環境での最適なパケット長について
    池川 隆司(東京大学・早稲田大学・神奈川工科大学・(株)アルテ)本講演では,主にIoT/M2M通信を対象として,パケット長が種々の通信品質に対して与える影響の解析に関する報告が行われた.講演の前半では,一般のインターネットから近年の無線通信に至るまで,通信品質の観点から最適なパケット長を決定する問題に関する様々な研究事例の紹介があった.講演の後半では,IoTネットワークに着目し,メッセージ分割時のグッドプットの解析およびそれを最大化するペイロード長の近似解が紹介された.

(2021年7月20日更新)

第295回部会報告

日時:
2021年5月15日(土) 14:00〜17:00
出席:
17名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 情報フローティングによる情報配信・蓄積について
    中野 敬介(新潟大学)
    本講演では,DTN (Delay Tolerant Network) 等に用いられるエピデミック通信において,各移動体が送信を行う場所を制限することで無秩序な情報拡散を防ぐ,情報フローティングと呼ばれる手法の性能評価と関連する研究課題が紹介された.特に,情報フローティングの持つ仮想的な情報蓄積機能に注目し,送信可能エリアが複数ある場合において発生する,情報の再蓄積の能力に関する性能評価結果が報告された.
  2. ブロードキャスト型合意形成における合意結果の分布に関する考察
    塩田 茂雄(千葉大学)
    本講演では,複数のエージェント間で意見を交換しながら集団合意に至る合意形成問題に関して,特にブロードキャスト型と呼ばれる合意形成における合意結果の確率的な特性に関する解析結果の報告が行われた.講演の前半では,各エージェントの初期意見が定数である場合を考え,エージェントが2体の場合における合意結果の分布特性の評価が紹介された.また講演の後半では,各エージェントの初期意見が独立同一な分布に従う場合を考え,エージェント数が無限大となる場合の極限に関する解析結果が紹介された.

(2021年7月20日更新)

第294回部会報告

日時:
2021年4月17日(土) 14:00〜17:00
出席:
33名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 脳神経システムの数理モデリングとデータサイエンス
    小林 亮太(東京大学)本講演では,脳神経のメカニズム解明に向けた数理モデル化とデータ解析アプローチが紹介された.講演の前半では,神経細胞の応答パターンおよびシナプスの入力に対する確率過程を用いたモデル化法および関連する諸問題についての紹介が行われた.また,講演の後半ではデータ解析アプローチとして,数理モデルに基づく神経細胞への入力信号の推定法や,神経細胞のスパイク信号データからの神経回路ネットワークの推定法が紹介された.
  2. 配送センターの受注量過程の推定
    高田 寛之*, 高橋拓渡, 松永昭一(長崎大学)本講演では,配送センターにおける受注量の推定に関する取り組みが紹介された.対象とするデータは1年や1週間といった単位で周期性が見られる時系列データであり,これを LSTM を用いて予測を行った結果が報告された.また,関連する機械学習技術およびそれらを実データへ適用する際に気をつけるべき点などが知見として共有された.

(2021年4月21日更新)

第293回部会報告

日時:
2021年2月20日(土) 14:00〜17:00
出席:
30名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. k次元反射型ランダムウォークの定常分布における安定かつlight tailである十分条件について
    小林 正弘(東海大学)本講演では,待ち行列モデルの解析で見られる k 次元反射型ランダムウォークに関する解析結果が報告された.次元数 k ≤ 2 の場合については既存研究において様々な結果があるが,k ≥ 3 の場合については十分に解析が行われてない.これに対し本講演では,定常分布が存在し,かつ light-tail であるための十分条件が,定常分布の積率母関数を用いた形式で示された.
  2. モバイルシンク付きWSNモデルに見られるオペレーションズ・リサーチ
    金子 美博(岐阜大学)本講演では,モバイルシンクを考慮した無線センサネットワークの概要,およびそこに潜在する様々なオペレーションズ・リサーチに関連する研究課題の解説が行われた.特に,L3ルーティングに関する話題を中心に,基本となるプロトコルや様々な問題設定が紹介され,今後の研究動向についても展望が示された.

(2021年2月25日更新)

第292回部会報告

日時:
2020年12月19日(土) 14:00〜17:00
出席:
22名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 省エネデータセンターの処理速度可変型待ち行列モデル:厳密解とスケール極限
    フンドック トゥアン(筑波大学)本講演では,データセンタで実施される処理サーバ台数の調整機能による応答時間と電力消費量のトレードオフに着目し,サーバがアイドル状態からの起動にセットアップ時間を要する種々の待ち行列モデルの性能評価法が報告された.まず,セットアップ時間のある複数サーバ待ち行列モデルについて,行列解析と母関数アプローチによる解析法が紹介され,その後バッチ到着のあるモデルへの拡張が行われた.また,これらのモデルの応用例として 5G 無線ネットワークにおける仮想リソース制御への適用例も紹介された.最後に,客の再試行とセットアップ時間のある複数サーバ待ち行列モデルが提案され,流体近似と拡散近似に基づくその解析法が紹介された.
  2. がん細胞増殖過程における薬剤抵抗性獲得に関するマルコフ解析
    山下 英明(東京都立大学)本講演では,がん細胞の薬物療法に向けた,がん細胞の増殖過程のマルコフ過程を用いた解析法が紹介された.がん細胞はその増殖過程において薬物抵抗細胞へ変異する可能性があるため,これを考慮した2変数のレベル依存型吸収マルコフ連鎖モデルが提案され,がん細胞が一定基準の検出可能数に達したときの薬剤抵抗細胞の出現確率・分布を,状態空間の縮約を用いて効率的に計算する手法が紹介された.また,がん細胞が検出可能数に達するまでの平均初到達時間を,連立方程式に基づき求める数値解法も提案された.

(2020年12月25日更新)

第291回部会報告

日時:
2020年11月21日(土) 14:00〜17:00
出席:
27名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 忍者待ち行列とその解析手法の提案
    豊泉 洋 (早稲田大学)本講演では,テーマパークでのアトラクションでの待ち行列のモデル化に向けた忍者待ち行列モデルが提案され,その解析手法についての紹介が行われた.まず,テーマパークでの優先権制御に用いられるファストパスの動きを模した「分身型」のモデルが紹介され,さらに,ファストパスの優先度を考慮するための「合体倍化」のモデルの提案が行われた. 前者の分身待ち行列モデルは,多次元ランダムウォークへ帰着することができ,その近似的な解析手法の紹介が行われた.
  2. 輻輳しづらい網とユーザ行動変容誘導による災害輻輳対策
    佐藤 大輔 (NTTネットワーク基盤技術研究所)本講演では,大規模災害時において安否確認等のために利用される音声通信の重要性およびそこで発生する輻輳の問題に着目し,輻輳を緩和するための網設計法およびユーザ行動の変容を誘導する手法の紹介が行われた.前者については,SIP網をユーザの電話番号の下4桁に基づいて構成することにより,従来よりも輻輳への耐性が高くなることが示された.また,後者については,ユーザの発信時間帯を整理券法により制御することで,平均通話時間を低減可能であることが示された.

(2020年11月24日更新)

第290回部会報告

日時:
2020年9月19日(土) 14:00〜17:00
出席:
22名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. On singular control for Lévy processes
    *野場 啓(大阪大学),山崎 和俊(関西大学)本講演では,Lévy 過程における在庫制御問題に対して,特定の条件下におけるバリア戦略の最適性が論じられた.既存研究では,比較的数学的に扱いやすい片側スペクトラル Lévy 過程が仮定されていたのに対し,本講演では標本路に注目した解析を行うことで,一般の Lévy 過程へと結果の拡張が行われた.
  2. マルコフ変調流体ネットワークの漸近解析:定常分布の漸近特性と集合不動点方程式
    宮沢 政清(東京理科大学,香港中文大学・深セン)本講演では,背後状態がマルコフ連鎖により決定される複数ノードが接続された流体ネットワーク上における,マルコフ変調流体ネットワーク過程の定常分布の裾の漸近解析についての結果が報告された.対象となるマルコフ過程に対するマルチンゲール分解により得られる Dynkin の公式表現を用いて,定常分布の積率母関数が有限となる領域を定常不等式により与え,裾の減少率の上界を求める手法が紹介された.また,指数マルチンゲールによる測度変換を行うことで裾の減少率の下界を求める手法も紹介された.

(2020年09月20日更新)

第289回部会報告

日時:
2020年7月18日(土) 14:00〜17:00
出席:
22名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. ブロック・チェーンのトリレンマ問題とその解決に向けた情報学的アプローチ
    笠原 正治(奈良先端科学技術大学院大学)本講演では,ブロックチェーンのトリレンマ問題に関わる具体的な諸課題,及びそれらの解決を目指した研究成果が紹介された.待ち行列理論によるビットコイン・トランザクションの承認時間解析,進化ゲーム理論を応用したマイニングプールのセキュリティ脆弱性の分析結果,大規模IoTシステムにおけるアクセス制御方式,さらにTangleと呼ばれる有向非巡回グラフを基にしたトランザクション・ツリーを表現するデータ構造の情報理論的な下限が報告された.最後にフォークと呼ばれるブロックチェーンの分岐に関する確率過程モデルが紹介され,今後の課題が提起された.
  2. 待ち行列研究部会報告御
    笠原 正治(奈良先端科学技術大学院大学)本講演では,2018年度から2019年度における待ち行列研究部会の活動内容が報告された.2年間に定例で開催した部会の講演と参加人数,2019年6月に開催された50年記念シンポジウム,毎年1月に開催されてきた待ち行列シンポジウム,日本オペレーションズ・リサーチ学会の確率関係の4部会合同研究会,待ち行列研究部会論文賞の受賞者,待ち行列研究部会研究奨励賞の受賞者について報告された.

(2020年08月20日更新)

第288回部会報告

日時:
2020年06月20日(土) 14:00〜17:00
出席:
29名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. ネット社会におけるエコーチェンバー効果のモデル化と対策
    *会田雅樹(東京都立大学),橋爪絢子(法政大学)本講演では,オンライン・ソーシャル・ネットワーク (OSN) 上における情報の分極化がもたらすエコーチェンバー効果のモデル化とその対策法が紹介された. OSN のダイナミクスをネットワーク上の波動方程式によりモデル化を行い,さらに,分極化に伴って OSN 構造に完全グラフ形式の部分ネットワークが表れることを考慮することで,通常のモデルの解と異なる,南部ゴールドストーンモードと呼ばれる新たなユーザダイナミクスが出現する様子が報告された.
  2. 潜在トラヒックの推定及び推定値に基づくNW設計/制御
    *石橋圭介, 内田拓海(国際基督教大学)本講演では,輻輳等の原因による通信の品質劣化時における,ユーザ通信行動の変化といった上位レイヤがもたらすネガティブ・フィードバック本講演では,輻輳等の原因による通信の品質劣化時における,ユーザ通信行動の変化といった上位レイヤがもたらすネガティブ・フィードバックの背後にある「潜在トラヒック」に着目し,実データを用いたその解析方法が紹介された.また,得られた解析結果を用いて,潜在トラヒック需要を考慮した新しいネットワーク設計法の提案が行われた.

(2020年06月22日更新)

第287回部会報告

日時:
2020年05月16日(土) 14:00〜17:00
出席:
38名
場所:
オンライン開催
テーマと発表者(*は講演者):
  1. 数理計画法を応用したパーフェクトサンプリングアルゴリズムの実装
    *岡村 寛之(広島大学)本講演では,マルコフ連鎖の定常分布に従うサンプルの生成を行うパーフェクトサンプリングに関して,既存手法であるエンベロープ法ではエンベロープ更新関数を確率モデルによってアドホックに構成する必要があるという課題をまず指摘し,より汎用的な確率モデルへの適用を目的とした,ペトリネットを用いた数理計画法に基づく新しい手法の紹介が行われた.
  2. 超高密度無線ネットワークの空間確率モデルにおける干渉場のスケール極限
    *三好 直人(東京工業大学)本講演では,空間点過程を用いた無線ネットワークの空間確率モデルにおいて,点過程の強度が十分大きい場合における無線電波干渉場の極限に関する結果が報告された.講演の前半では,無線基地局の位置が均質なポアソン点過程に従う場合の結果が紹介され,後半では,基地局の位置間に相関のある行列式点過程に従う場合へと拡張した結果が紹介された.

(2020年05月26日更新)