OR 事例研究紹介

Institute for Operations Research and the Management Sciences(INFORMS)のご厚意により,INFORMS Journal on Applied Analyticsに掲載された論文のアブストラクト和訳掲載許可を頂きました.

 

Alibaba Realizes Millions in Cost Savings Through Integrated Demand Forecasting, Inventory Management, Price Optimization, and Product Recommendations

(アリババ,需要予測,在庫管理,価格最適化,商品推奨の統合により数百万ドルのコスト削減を実現)

Yuming Deng, Xinhui Zhang , Tong Wang, Lin Wang, Yidong Zhang, Xiaoqing Wang, Su Zhao, Yunwei Qi, Guangyao Yang, Xuezheng Peng

INFORMS Journal on Applied Analytics 53(1):32-46.   https://doi.org/10.1287/inte.2022.1145

キーワード:需要予測,在庫管理,価格最適化,商品レコメンデーション,シミュレーション最適化,Edelman賞

要旨:

世界最大級のeコマースプラットフォームを運営するアリババは,雑貨から生鮮食品に至るまで,オンラインとオフライン両方での注文を可能にする包括的なオムニチャネルの小売り基盤システムを設計しました.需要予測,在庫管理,価格最適化などのサプライチェーンにおける合理的な意思決定は,小売業の成功にとって不可欠です.しかし,小売業における多くのユニークな業務は,従来のオペレーションズ・リサーチの手法に合わず,深刻な課題を引き起こしていました.アリババは,需要予測のためのディープラーニングアルゴリズム,在庫管理のためのシミュレーション最適化に基づくモデル,プロモーションのための価格最適化,商品レコメンデーションのための値下げ最適化などの一連のモデルとアルゴリズムを開発しました.アリババは過去3年間,ほぼすべての小売業にこれらのアルゴリズムを実装し,年間ベースで,在庫コストを4,200万ドル節約し,売上を1億1千万ドル,利益を1,300万ドル増加させました.

 

Data-Driven Optimization for Atlanta Police-Zone Design

(アトランタ警察管轄地域設計のためのデータ駆動型最適化)

Shixiang Zhu, He Wang, Yao Xie

INFORMS Journal on Applied Analytics 52(5):412-432.   https://doi.org/10.1287/inte.2022.1122

キーワード:警察業務,データ分析,待ち行列モデル,最適化,混合整数最適化問題

要旨:

都市環境における警察の巡回区域を再設計するためのデータドリブンな最適化フレームワークを提案します.その目的は,地域ごとの警察業務負荷を均等にすること,緊急通報に対する応答時間を短縮することにあります.我々は,事件報告,人口統計調査,交通データなどの複数のデータソースを統合することで,警察の緊急対応に関する確率モデルを構築します.この確率モデルを用いて,混合整数線形計画法によって区域再再設計プランを最適化します.我々が提案した新区域は,2019年3月にアトランタ警察署で施行されました.区域再設計前後のデータを分析することで,新区域の導入によって優先度の高い通報への応答時間が5.8%短縮されるとともに,アトランタの区域間における警察業務負荷の不均衡が43%減少しました.

 

Optimal Scheduling of Waitstaff with Different Experience Levels at a Restaurant Chain

(レストランチェーンにおける異なる熟練度を持つ接客係の最適スケジューリング)

Najmaddin Akhundov, Nail Tahirov, Christoph H. Glock

INFORMS Journal on Applied Analytics 52(4):324-343.   https://doi.org/10.1287/inte.2022.1124

キーワード:ツアースケジューリング,レストラン経営,スタッフスケジューリング, ウェイトオーダー,従業員スキルレベル

要旨:

レストランは,コスト削減の強いプレッシャーに直面することがよくあります.マネジャーは,派遣社員やパートタイマーを雇用し,可能な限り従業員の規模を小さくすることで対応するのが常であり,それが,顧客に十分なサービスを提供する従業員のスケジュールを作成することを難しくしています.(頻繁な)従業員の離職や需要の変動が生じたり,従業員が異なる熟練度を持つようであれば,この問題はさらに複雑になります.本論文では,アゼルバイジャンのバクーを拠点とするレストランチェーンにおいて,管理要件を考慮した上で,接客係のスケジューリングを支援する数理モデルを提示します.本論文であつかう問題は,一週間を通して接客係のシフトを組む一般的なツアースケジューリング問題と等価です.私たちは,従業員の種類や熟練度,顧客の注文の複雑さの違い,追加業務や責任などを考慮した上で,最適な従業員数と各従業員の最良のツアーを見つける3つの整数計画問題を開発します.このモデルは最適に解かれ,その結果はバクーのレストランチェーンの支部に適用されます.最適化されたスケジュールは,既存のスケジュールと比較して,同じサービス基準を満たしつつ,約40%の従業員と約20%の人件費の過剰な従業員の削減を可能にしました.

 

Operations Research Helps the Optimal Bidding of Virtual Power Plants

(オペレーションズ・リサーチを用いた仮想発電所の最適入札)

Daeho Kim, Hyungkyu Cheon, Dong Gu Choi, Seongbin Im

INFORMS Journal on Applied Analytics 52(4):344-362.   https://doi.org/10.1287/inte.2022.1120

キーワード:電力産業,プラットフォーム経営オペレーション,最適入札,マルコフ決定過程モデル,シナリオ生成

要旨:

分散型エネルギー資源(DER: Distributed Energy Resources)が次々と現れる中,新たなクラウドベースの情報技術プラットフォームビジネスモデルである,仮想発電所(VPP: Virtual Power Plant)が電力市場に導入されました.VPPの競争力は,主にデータ分析と運用技術に依存して決まります.いくつかある運用技術に関する問題の中で,我々は前日市場における最適入札決定問題に焦点を当てました.入札決定とは,DERが供給する電力が確定していない前日の時点において,どれだけの電力を市場に供給するかをVPPが約束するものであり,これによりVPPの収益が変化します.韓国のVPP企業であるH Energy株式会社との共同研究において,我々は入札決定問題をマルコフ決定過程モデルを用いて定式化し,確率的動的計画法に基づく解法を用いて,この問題を解きました.これはインセンティブベースの市場構造の下で行われた初めての研究です.シナリオツリーやラティス構造を用いて,DERによる電力供給の不確実性を記述するフレームワークを構築しました.さらに,計算負荷軽減のために発見的手法を適用しました.実データに基づく予備実験を通して,我々は提案したモデルと解法の性能・実用性を検証しました.ケース企業では,自社のプラットフォーム上で我々の提案したモデルと解法の実装をはじめ,DERの高度な予測モデルを使用した後,パフォーマンスが向上したことを確認しました.

 

Total Unduplicated Reach and Frequency Optimization at Procter & Gamble

(プロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)におけるTURF(Total Unduplicated Reach and Frequency)最適化)

JJeffrey D. Camm, Jeremy Christman, A. Narayanan

INFORMS Journal on Applied Analytics 52(2):149-157.   https://doi.org/10.1287/inte.2021.1096

キーワード:マーケティング,新製品,計画,整数

要旨:

Procter&Gamble 社(P&G)は,9万人以上の従業員を擁し,世界約80カ国で事業を展開する消費財企業です.P&Gの10カテゴリーに分類される製品は,180カ国以上で販売されています.P&GのConsumer Research Analyticsグループは,P&Gの製品ポートフォリオの製品が消費者に受け入れられるだけではなく,多くの消費者に選ばれる製品となり,それによってP&Gの市場シェアを最大化するために,分析によって社内クライアントを支援しています.製品ラインを管理するために最も頻繁に使用される分析アプローチの1つはTURF(Total Unduplicated Reach and Frequency)分析です.これまでの列挙によるアプローチを整数計画法に置き換え,単位超立方体へのカットを組み合わせることで分析を劇的に高速化しました.結果として,P&Gはシステムの使用率の向上,既存製品の改良,そして取扱い品目の計画やその他の用途におけるより綿密な分析を実現しました.

 

Inventory Management Using a Weekly Review (s, S) Policy at the Bank of Canada

(カナダ銀行における週次レビュー(s, S)政策による在庫管理)

Antoine Legrain, Johnathan Patrick 

INFORMS Journal on Applied Analytics 52(2):210-225.   https://doi.org/10.1287/inte.2021.1089

キーワード:銀行,金融機関,在庫,生産,ヒューリスティクス,ネットワーク,グラフ,シミュレーション,流通

要旨:

カナダ銀行(BoC)の役割の1つは,全国に各通貨の十分な在庫を確保することです.これを達成するために,BoCは在庫を保管するための43の地域流通センター(RDC)を設立しました.各RDCには,ペナルティなしで保管できる通貨総額の上限が設定されています.地方銀行は,RDCからの引き出しを要求することも,RDCにお金を預けることも選択できます.さらに,BoCは,サービスに適さない通貨を回収しなければならないことがよくあります.したがって,BoCは,需要がプラス(引き出し)にもマイナス(預金)にもなりえる双方向の在庫管理問題に直面しており,BoCは在庫が少なすぎる(不足につながる)ことと在庫が多すぎる(限度額超過のペナルティにつながる)ことの両方を防止する必要があります.各RDCの在庫管理のために,各RDCへの在庫出荷量と各RDCからの在庫出荷量を毎週決定する,適応型週次レビュー(s,S)政策を導入しました.BoCは,2018年前半までこの政策を実施しました.過去2年間との比較では,導入前のコストが年々増加していたにもかかわらず,導入後12か月間の輸送コストは,その前の2年間の平均と比較して約15%低下したことが示されました.

 

Limousine Service Management: Capacity Planning with Predictive Analytics and Optimization

(リムジンサービス管理:予測分析と最適化によるサービス容量計画)

Peng Liu , Ying Chen , Chung-Piaw Teo 

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(4):280-296.   https://doi.org/10.1287/inte.2021.1079

キーワード:需要予測,スケジューリング,プロセスオートメーション,ホスピタリティ

要旨:

高級ホテルにおけるリムジンサービスは,ホスピタリティ業界におけるカスタマージャーニー全体の重要な要素です.シンガポール最大級のホテルでは,24時間体制で自社車両と外注車両の両方を管理し,月平均9,000便を運行しています.特に国内の特別なイベント開催日や祝祭日期間中には,車両の需要が急増することがあります.自社車両で対応できない場合には外注車両を追加待機させることで対応しますが,これには年間数百万円の追加費用がホテルに発生しています.しかし,時間帯ごとに必要なリムジンの台数を決定するサービス容量決定問題は,解くことが困難なチャレンジングな問題です.本論文では,年間320万シンガポールドルの節約を実現しながらサービスレベルを向上させた,リムジン台数の決定問題を解決するために行われた最近の変革的な取り組みを紹介します.このアプローチは広く利用可能なオープンソースの統計的手法とスプレッドシートの最適化ツールに加え,ロボティック・プロセス・オートメーションを用いることで,ホテルが保有するリムジンと運転手のスケジュールを最適化し,計画者,および管理者が持続的にビジネス価値を生み出す意思決定を支援しています.

 

Seasonal Inventory Management Model for Raw Materials in Steel Industry

(鉄鋼業における季節変動を考慮した原料の在庫管理モデル)

Kosuke Kawakami, Hirokazu Kobayashi, Kazuhide Nakata 

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(4):312-324.   https://doi.org/10.1287/inte.2021.1073

キーワード:統計的在庫政策, 安全在庫管理, 複数工場, 複数品種管理, 2 段階モデル

要旨:

複数のサプライヤーと複数の製鉄所を有する製鉄業における鉄鉱石や石炭などの原材料に対する季節変動を考慮した適正在庫管理モデルを開発しました. 日本製鉄株式会社は, オーストラリア, ブラジル, カナダなどから船舶で年間 1 億トン以上の原材料を輸入しています. 輸入された原材料は日本国内の製鉄所に運ばれ, 原料ヤードと呼ばれる原材料専用のスペースに一時保管されまs. 日本国内の原料ヤードは容量が限られており, 原料ヤードの容量オーバーによる船舶の洋上待機がしばしば発生します. この洋上待機に伴い発生する滞船料は莫大であり, 滞船料を抑えるために原材料の在庫レベルをできるだけ低く抑えて原料ヤードの容量オーバーを防がなければなりません. しかし, 在庫レベルを低く抑えすぎると, 季節的な供給トラブル (オーストラリアのサイクロンなど) が原因で在庫不足が発生する可能性があります. 在庫の過不足はいずれもコストの増加につながるため, 適正な在庫水準を決定しなければなりません. この課題に対して我々は, 船舶の配船業務を解析することで船の運航が日本近海への到着と日本から各製鉄所への配船の 2 つに分けられることに着目し, 日本近海への到着を非定常ポアソン分布, 日本から各製鉄所への配船を指数分布が複数回生じた際の分布を示す非定常ガンマ分布としてモデル化しました. これにより, 適正在庫を季節変動も含め数理的に考慮可能となり, 夏季に 14%, 冬季に 6% の在庫削減が可能となりました.

 

Network Mode Optimization for the DHL Supply Chain

(DHLサプライチェーンのネットワーク形態最適化)

Yibo Dang , Manjeet Singh , Theodore T. Allen 

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(3):179-199.   https://doi.org/10.1287/inte.2020.1046

キーワード:輸配送,時間・運送業者制約付き配送計画問題,ネットワーク最適化,内製・外勢決定,蟻コロニー最適化

要旨:

北米のDHLサプライチェーンは,毎年2000万個を越える荷物を配送しています.DHLの輸送計画担当者は多くのビジネスプロジェクトにおいて,配送とコスト削減の業務を実施しています.私たちは,この計画問題を時間規定および一般運送業者付き配送計画問題 (VRPTRCC)と呼びます.単一の輸送手段のみを用いる通常の配送計画問題と異なり,私たちのVRPTRCCの事例では,荷物の配送の一部を最終的にDHL以外の一般運送業者に下請けに出すため,外注の判断が含まれます.時間規定は,配達時間枠だけではなく,中継や運転時間の制限も考慮した問題を意味します.私たちの開発したネットワーク形態最適化ツール(NMOT)はアントコロニー最適化(ACO)にもとづく計画により,DHLサプライチェーンの輸送分析者がロジスティクスネットワークにおいてコスト削減の特定を支援します.NMOTを用いることで,DHLと顧客は年間数百万ドルを節約しています.また,NMOTは,DHLが入札競合者から新規顧客を獲得する助けとなり,見積り時間を数週間から数時間に短縮しています.新規プロジェクトの組み合わせ運用コストを削減したことで,以前の業務プロセスと比較して利益が15%以上純増した結果が示されました.NMOTは進行中のプロジェクトのデータを用いて実装・評価されています.

 

Operations Research Improves Biomanufacturing Efficiency at MSD Animal Health

(オペレーションズ・リサーチを用いたMSD Animal Health社におけるバイオマニュファクチャリング効果の改善)

Tugce Martagan, Yesim Koca,Ivo Adan,Bram van Ravenstein,Marc Baaijens,Oscar Repping 

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(2):150-163.   https://doi.org/10.1287/inte.2020.1054

キーワード:バイオマニュファクチャリング,発酵,最適化,シミュレーション,再生理論,コスト削減

要旨:

バイオマニュファクチャリングは,生物(ウイルスや細菌など)を使って有効成分を生成する手法であり,その点で他の産業とは異なる課題を引き起こします.例えば,バイオメーカーは,生産収率,リードタイム,およびコストに関して,大きな不確実度とバッチごとのばらつきにしばしば直面します.バイオセーフティの要件は,生産工程全体を通したゼロ待機時間要件のような制約を課します.加えて,バイオマニュファクチャリングはコストと労力がかかり,失敗のリスクも高いです.これらの課題に対処するため,複数の研究分野からなる研究者チームの3年におよぶ協業により,最適化モデルと意思決定支援ツールからなるポートフォリオを開発しました.これらのツールは,確率的最適化,ベイズ実験計画法,シミュレーション最適化など,さまざまなオペレーションズ・リサーチの方法論を用いて,バイオ製造効率を向上させることを目的とします.開発されたモデルは,バイオ製造プロセスの基礎となる生物学と化学を,財務上のトレードオフやビジネスリスクと結びつけます.本研究は,オランダのBoxmeerにあるMSD Animal Health社との緊密な協力のもとで実施されました.MSD AH社における実用化の結果,バッチ歩留まりが最大50%向上し,年間5,000万ユーロの追加収益がもたらされるという大きな効果をもたらしました.こうしたオペレーションズ・リサーチの応用は,バイオ製造業界にとって非常に新しい取り組みです.MSD AH社のような企業のより多くがオペレーションズ・リサーチを利活用することで,業界が新しい治療法へのアクセスをより早く,より安価に提供することに大きく貢献するものと確信します.

 

Intel Realizes $25 Billion by Applying Advanced Analytics from Product Architecture Design Through Supply Chain Planning

(インテル,製品アーキテクチャ設計からサプライチェーン計画まで高度な分析を適用することで 250億ドルを実現)

John Heiney, Ryan Lovrien, Nicholas Mason, Irfan Ovacik, Evan Rash, Nandini Sarkar, Harry Travis, Zhenying Zhao, Kalani Ching, Shamin Shirodkar, Karl Kempf 

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(1):9-25.   https://doi.org/10.1287/inte.2020.1067

キーワード:サプライチェーン計画最適化,設計計画統合,分割問題,混合整数計画法,遺伝的アルゴリズム,デバイス物理シミュレーション,Edelman賞,半導体製造

要旨:

規模,製品と製造プロセスの複雑さ,半導体ビジネスの資本集約的な性質から,インテルの成功にはサプライチェーン計画と統合された効率的な製品アーキテクチャ設計が不可欠です.指数関数的に増加する複雑性に対応するため,インテルは高度な分析を使用して,収益の最大化とコストの最小化という2つの目標を掲げ,製品アーキテクチャの設計からサプライチェーン計画まで革新的な機能を開発しました.具体的には,遺伝的アルゴリズムとデバイス物理シミュレーションを使用した製品設計案の生成と最適化を,問題の分割と混合整数計画法を使用した大規模なサプライチェーン計画と統合してします.この全社規模の機能は迅速かつ効果的であり,従来のソリューションよりもはるかに短い時間でより多くのビジネスシナリオの分析を可能にすると同時に,顧客への応答時間の短縮など,優れた結果を提供します.インテルの製品ポートフォリオの大部分にこの機能を実装することで,年間収益は平均19億ドル増加し,年間コストは15億ドル削減され,2009年以降,合計254億ドルの利益を得ると同時に,インテルの持続可能性への取り組みにも貢献しています.

 

Deutsche Bahn Schedules Train Rotations Using Hypergraph Optimization

(ドイツ鉄道におけるハイパーグラフ最適化を用いた列車のローテーション計画の作成)

Ralf Borndörfer, Thomas Eßer, Patrick Frankenberger, Andreas Huck, Christoph Jobmann, Boris Krostitz, Karsten Kuchenbecker, Kai Mohrhagen, Philipp Nagl, Michael Peterson, Markus Reuther, Thilo Schang, Michael Schoch, Hanno Schülldorf, Peter Schütz, Tobias Therolf, Kerstin Waas, Steffen Weider  

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(1):42-62.   https://doi.org/10.1287/inte.2020.1069

キーワード:交通,線路,スケジューリング,車両,大規模システム,整数計画法,グラフ,超グラフ,Edelman賞

要旨:

ドイツ鉄道(DB)は,大規模な車両群(機関車,貨車,列車の集合)を運用しており,車両のローテーションを実現するための列車編成をする必要があります.この列車編成の運用計画は,他の産業に良く現れる車両スケジューリング問題と異なる鉄道事業の特色です.ドイツ鉄道はハイパー枝を用いて列車編成をモデル化します.得られたハイパーグラフのモデルを,3つの詳細度に渡る階層的な列生成法を実装した粗密法により対処します.このアルゴリズムは,車両ローテーション計画のためのドイツ鉄道の車両運用最適化(FEO)システムの数理的な中核です.FEOがドイツ鉄道の計画部門に与えた影響は画期的でした.ドイツ鉄道は,このシステムを用いて,最新の高速旅客列車や国境を越えて運行する複合輸送貨物機関車の調達を支援しました.地域輸送の入札の成功や日常業務における建設現場の管理の鍵となっています.ドイツ鉄道の計画部門はFEOの高品質な結果,再最適化の能力(早さ),使い易さを高く評価しています.従業員と顧客ともに,業務の規則性が高まったことの恩恵を受けています.ドイツ鉄道はFEOの導入により,年間7400万ユーロの節約,年間34000トンのCO2排出の削減,国境を越えた際の600回の連結業務の削減がなされたと考えています.

 

A Multiobjective Optimization for Clearance in Walmart Brick-and-Mortar Stores

(ウォルマートの実店舗における在庫一掃に対する多目的最適化)

Yixian Chen, Prakhar Mehrotra, Nitin Kishore Sai Samala, Kamilia Ahmadi, Viresh Jivane, Linsey Pang, Monika ShrivastavNate Lyman, Scott Pleiman  

INFORMS Journal on Applied Analytics 51(1):76-89.   https://doi.org/10.1287/inte.2020.1065

キーワード:マーチャンダイジング,価格最適化,在庫最適化,深層強化学習,Edelman賞

要旨:

多様な目的実現のために値下げシステムを新しく開発し,ウォルマートでは多くの商品ユニットに展開しました.このシステムの目的は,(1)指定された日までに店舗の余剰在庫を一掃すること,(2)棚を空けるために必要な値引きを最小限に抑えることで収益を改善すること,(3)店舗の商品にラベルを付け直すために発生する多額なコストを削減することです.基礎となる数学的アプローチは,深層強化学習,シミュレーション,最適化などの手法であり,最適価格(値下げ価格)を決定します.2019年から,6か月にわたる大規模テストの後,米国のすべてのウォルマート店舗に新しいアプローチを実装しました.その結果,各店舗に合わせた価格調整方針を持つ高性能のモデルが誕生しました.ウォルマートはセルスルー率(値下げ期間中の販売数を値下げ開始時の在庫で割った値)を21%増加させ,コストを7%削減しました.ウォールマートにもたらした恩恵として,人口統計に基づく店舗のパーソナライズ化,価格調整の回数を限定することでオペレーションコストの削減,値下げの時間帯を動的に設定できることが挙げられます.

 

Saving Time and Money and Reducing Carbon Dioxide Emissions by Efficiently Allocating Customers

(顧客を効率的に割り当てることで時間とお金を節約し二酸化炭素排出量を削減)

Christian Haket, Bo van der Rhee, Jacques de Swart  

INFORMS Journal on Applied Analytics 50(3):153-165.   https://doi.org/10.1287/inte.2020.1028

キーワード:ヒューリスティクス,割当問題,再割当コスト

要旨:

多くの産業で,マルチファシリティサービスプロバイダーは,顧客をより効率的に施設に割り当てることで,時間とコストを節約し,二酸化炭素(CO2)排出量を削減できます.しかし,企業は顧客を別の施設に再割当するときに再割当コストを負担します.これは,先行研究ではあまり注目されていません.CPLEX などのソフトウェア・パッケージは,この種の問題に対し最適解を求めることができますが,管理者は専門的な知識が不足していたり,コストを過大評価したり,利益を過小評価したりするため,パッケージを使用することはまれです.再割当コストを含めた一般的なヒューリスティックモデルをExcel VBAで作り,その結果を CPLEX による最適解と比較しました.オランダの大手サービスプロバイダーであるVan Dorpとの共同研究の結果,(1)大幅なコスト削減が可能であること,(2)再割当コストが大きな役割を果たすこと,(3)ヒューリスティックによる解がほぼ最適解となることがわかりました.具体的には,Van Dorpの「最悪の割り当て」である顧客20社を再割当することで,4,000時間以上の運転時間と36万ユーロのコストの節約,および41トンのCO2排出量の削減が実現します.

 

Analytics and Optimization Reduce Sewage Overflows to Protect Community Waterways in Kentucky

(アメリカ・ケンタッキー州における下水道設備の維持管理のためのオペレーションズ・リサーチと最適化を用いた越流水削減)

Diana Qing Tao, Martin Pleau, Angela Akridge, Olivier Fradet, François Grondin, Stephanie Laughlin, Wolffie Miller, Leslie Shoemaker  

INFORMS Journal on Applied Analytics 50(1):7-20.   https://doi.org/10.1287/inte.2019.1022

キーワード:オペレーションズ・リサーチ,リアルタイム制御,下水, 雨水, モデル予測制御,最適化,雨天

要旨:

アメリカ・ケンタッキー州のルイビル・ジェファーソン郡都市下水道局 (ルイビル MSD) は,オペレーションズ・リサーチ,先端的なデータ解析,革新的技術を用いて下水の集水,排水,処理を最適化することで,この地域における下水道設備を維持管理しています. 下水道の容量を超える降雨の際には,都市部で下水が逆流したり,下水の処理が不十分なまま越流水として河川等に流れ出たり,局所的な洪水が発生したりする可能性があります. ルイビル MSD は下水道越流水の削減や公衆衛生と環境の保護という多くの課題に対処するために,財政的な制約を考慮しつつ,下水道設備を最適に設計・運用する革新的な方法を求めていました. そして,テトラテック社との提携により,Csoft を使用したリアルタイム制御システムを導入しました. このシステムは下水道監視データと天気予報を解析し,排水経路の最適化,貯水池等の調整施設における貯水・排水計画の最適化,処理施設の最大活用など,システム全体の最適化を行ないます. このシステムを導入したことにより,降雨時の下水道の越流水量が減少し,調整施設の規模を縮小できるようになりました. その結果,この地域において 2 億ドル以上のコスト削減に成功し,運用効率の向上にもつながりました. 2006 年から運用されているこのシステムは,ルイビル MSD の長期越流水削減計画に従って段階的に導入され,、システム容量の改善を増加が図られています. 現在,このシステムは例年 20 億ガロン以上の越流水を削減しています.

 

Collaborative Human–UAV Search and Rescue for Missing Tourists in Nature Reserves

(自然保護区における行方不明の観光客に対する人間と UAV による協調的な捜索と救助)

Yu-Jun Zheng, Yi-Chen Du, Wei-Guo Sheng, Hai-Feng Ling  

INFORMS Journal on Applied Analytics 49(5):371-383.   https://doi.org/10.1287/inte.2019.1000

キーワード:無人航空機 (UAV),捜索・救助,協調的捜索,進化アルゴリズム

要旨:

複雑な地形での捜索・救助作業において無人航空機 (UAV) が用いられるようになってきました. UAV を用いた捜索に関する多くの先行研究では,捜索時間の最小化や発見確率の最大化が目的とされていました. 捜索者が目標を発見しなければならない多くの場面では人間と UAV の協調的な捜索が必要とされますが,そのような協調的な捜索に関する研究はあまりなされていませんでした. 本論文では,捜索者が目標に到達するまでにかかる時間の期待値の最小化を目的とする人間と UAV の協調的な捜索計画問題を提案します. この問題は非常に複雑なため,従来の厳密アルゴリズムで解こうとすると非常に時間がかかり,比較的小さな問題例ですら実用的な時間で解くことができません. 本論文では,生物地理学に着想を得た操作を用いて解集団を許容時間内に最適 (に近い) 解まで効率よく進化させる進化アルゴリズムを提案します. また,いくつかのよく知られたアルゴリズムと比較する計算機実験により,本アルゴリズムの優位性を示します. 提案手法は,中国の自然保護区で行方不明の観光客を見つけるための 2 回の捜索救助活動に実際に適用され,成功を収めました. 提案手法は,従来の救助隊の手法と比較して,目標到達までの時間をそれぞれ約 79 分,約 147 分短縮し,人命に関わる業務に大きな改善をもたらしました.

 

Operations Research Enables Auction to Repurpose Television Spectrum for Next-Generation Wireless Technologies

(オペレーションズ・リサーチによりオークションでテレビのスペクトルを次世代ワイヤレステクノロジーに再利用することを可能に)

Jean L. Kiddoo, Evan Kwerel, Sasha Javid, Melissa Dunford, Gary M. Epstein, Charles E. Meisch,Jr., Karla L. Hoffman, Brian B. Smith, Anthony B. Coudert, Rudy K. Sultana, James A. Costa, Steven Charbonneau, Michael Trick, Ilya Segal, Kevin Leyton-Brown, Neil Newman, Alexandre Fréchette, Dinesh Menon, Paul Salasznyk   

INFORMS Journal on Applied Analytics 49(1):7-22.   https://doi.org/10.1287/inte.2018.0972

キーワード:周波数,周波数オークション,逆オークション,インセンティブオークション,最適化,充足可能性ソルバー

 

要旨:

2017年,米国連邦通信委員会は,モバイルブロードバンドや5Gなどのワイヤレスサービスに対して拡大している需要を満たすために,テレビ局から無線周波数帯を回収し,世界初の両面周波数オークションを実施しました.オークションの設計と実施には,最適化モデル,分解,カット,ヒューリスティクス,大規模近傍検索,機械学習によってパラメータが決定される充足可能性問題ソルバーのポートフォリオなど,カスタマイズされた一連のオペレーションズ・リサーチの活用が不可欠でした.このオークションでは,84メガヘルツの周波数が再利用され,約200億ドルの総収入を生み出しました.また,テレビ放送業界に100億ドル以上の資金を提供し,連邦赤字削減に70億ドル以上の資金を提供しました.

 

American Red Cross Uses Analytics-Based Methods to Improve Blood-Collection Operations

(米国赤十字社,分析ベースに基づく手法で採血業務を改善)

Turgay Ayer, Can Zhang, Chenxi Zeng, Chelsea C. White III, V. Roshan Joseph, Mary Deck, Kevin Lee, Diana Moroney, Zeynep Ozkaynak   

Interfaces 48(1):24-34.   https://doi.org/10.1287/inte.2017.0925

キーワード:米国赤十字,採血,実践的研究,分析

要旨:

本研究では,米国に36地域存在する赤十字のうち,米国南部の120以上の病院にサービスを提供している米国赤十字南部地区における地域レベルの凍結沈殿物(クライオ)採血プロジェクトについて述べます.クライオの製造には,採取した全血を採取後8時間以内に処理する必要があるため,クライオユニットの採血管理は非常に困難です.他の血液製剤ではこの時間制約は少なくとも24時間です.このプロジェクトでは,米国赤十字南部地区がクライオ製造のためにいつ,どの移動式採血場から全血を採取すべきかを動的に決定し,毎週の採取目標を達成し,採血コストを最小化することに焦点を当てました.この問題を解決するために,同じ採血場で異なるタイプの採取を可能にする新しい採血モデルを開発し,最適に近い形で問題を解決する動的計画法を開発しました.動的計画法の結果を分析することで,貪欲アルゴリズムによるヒューリスティックを作成し,採血場の選定をシステム化するための意思決定支援ツール(DST)に実装しました.南部地区でDSTを導入した結果,採取後8時間以内に製造施設に送り返し,処理できる全血ユニットの数が増加しました.この施設では,2016年第4四半期において若干低い採血コストで1カ月あたり約1,000ユニット(20%増)のクライオを処理し,クライオの1ユニットあたりの採血コストを約40%削減することに成功しました.南部地区での導入の成功に基づき,米国赤十字社はセントルイスの施設でもDSTを導入し,他の10のクライオ製造施設でも導入する予定です.

 

The New York City Off-Hour Delivery Program: A Business and Community-Friendly Sustainability Program

(ニューヨーク市時間外配送プログラム:ビジネスとコミュニティのための持続可能性プログラム)

José Holguín-Veras, Stacey Hodge, Jeffrey Wojtowicz, Caesar Singh, Cara Wang, Miguel Jaller, Felipe Aros-Vera, Kaan Ozbay, Andrew Weeks, Michael Replogle, Charles Ukegbu, Jeff Ban, Matthew Brom, Shama Campbell, Ivan Sanchez-Díaz, Carlos González-Calderón, Alain Kornhauser, Mark Simon, Susan McSherry, Asheque Rahman, Trilce Encarnación, Xia Yang, Diana Ramírez-Ríos, Lokesh Kalahasthi, Johanna Amaya, Michael Silas, Brandon Allen, Brenda Cruz   

Interfaces 48(1):70-86.   https://doi.org/10.1287/inte.2017.0929

キーワード:時間外配送,オフピーク配送,輸送需要管理,都市輸送,輸送排ガス量,輸送持続可能性

要旨:

ニューヨーク市時間外配送(NYC OHD)プログラムは,主要な民間グループや企業からなる産業部門,ニューヨーク市交通局が主導する公共部門,およびレンセラー工科大学が率いる学術部門による産官学連携事業です.この事業により,ニューヨーク市の400以上の商業施設がOHDを受け入れています.その経済的利益は非常に大きく,運送業者は配送費用と駐車違反による罰金を45%削減でき,荷受人は配送の信頼性が高くなったことで在庫量を減らすことができ,トラック運転手はストレスが減るとともに,労働時間が短くなり,配送と駐車が容易になりました.配送トラックは通常の配送時よりも55〜67%の排ガスを削減でき,これは年間250万トンのCO2の削減につながります.また,トラック,自動車,自転車,歩行者交通の交錯の減少,および低騒音の配送方法・技術の使用により,市民の生活の質が向上しました.これらの経済的総利益は年間2,000万ドルを超えます.OHDプログラムの成功は主に行動マイクロシミュレーションを用いた政策設計によるところが大きいです.この独自の最適化シミュレーションシステムには,政策の代替案の有効性を評価するオペレーションズ・リサーチや経営科学の研究成果が組み込まれています.これにより,米国で最も複雑な都市環境でのプロジェクトの実施に成功しました.